憂い心を起こさない意。どんなに困難に突き当たっても、憂い心を起こさず喜んで取り組めば、必ずこれを乗り越えることできる。
行書体で書かれた「無」の三本の充実した横画は、手前に浮き出し、それをつなぐ二本の渇筆(かっぴつ=かすれた線)は奥に退いたように見え、立体的な三次元の空間を創り出している。少し左に傾けた「無」 の動勢を、草書体の「憂」がうけとめる。筆の鋒先の弾力を利かせた暢びやかな運筆によって、骨力ある線が空間を切り、三つの右旋回は大宇宙のリズムと共鳴しつつ、最終横画へと息長く続き、収筆は余韻を残しつつ静かに抜かれている。文字の下方に広く空けられた余白によって、この「憂」は宇宙空間に浮遊しているかのよう感じられる。