倫理の道標
丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則
3. よい結果は、準備次第
万事を想定して準備を整える。
たいていのことは成功する。
よい原因にはよい結果、悪い原因には悪い結果。
熊本市で鉄工所を経営していた藤田富太は、敏雄から、「大切なことは二段三段の構えをすべきです」と、よく聞かされた。
二段三段の構えとは、何かの事情で物事が予定通り出来ない場合も想定し、次善の方法を準備することである。
たとえば、取引先にパソコンを活用したプレゼンテーションを企画したとすると、パソコンを複数準備したり、パソコンが利用できない最悪の場合も考慮して、他の手段も用意することである。
ある日、敏雄が主催した大切な会合でのこと。当日の天気予報は「晴」だったが、敏雄は参加者の予定人数分の番傘を用意した。しかも、番号札まで準備した。同席した藤田は、その用意周到ぶりに驚いた。そして<二段三段の構えとは、こういう事か>と感じ入った。
日常生活でも、敏雄は実に周到な準備を心がけた。昔は出張すると、個人の家に泊めてもらうことが多かった。そういう時、彼は必ず小さな懐中電灯を携行した。同行した弟子の一人は、「泊まるときは、便所のスイッチの位置などをよく聞いておき、懐中電灯を準備しておくとよい」と、教えられた。
他人の家に泊まる時に一番困るのは、夜中に目が覚め、便所がわからないことである。暗い中をウロウロすると、思いがけないトラブルにあう恐れもある。
特に新たなこと、重要なことを始めるにあたって大切なのは、単に物の準備だけであろうか。敏雄は、そうした準備を精一杯やるのは当然として、成功するか否かを決める重要な鍵があると説いた。それは、関係者すべての精神の一致、ことにその中心となる人の、夫婦・父母・その他の関係者の心が一つになることを指していた。
関係者の心が「よし、これでいこう」と一つに結束すれば物事は成就する。それがバラバラであったり、誰かが強い不満や批判的な気持ちを持ったままだと、思わぬところから崩れてしまう。
家族の協力が得られないことは、失敗する。ましてや妻にも相談しないで、内緒で行なうことが、成功するはずはない。後に「こんなはずではなかった」と悔やむのは、独断で強引に始めたことに多い。身内も賛成できないことに、他人の協力が得られるはずはない。
さらに「必ずやるぞ」という巌のごとき信念を土台とした燃えるような希望を固めることも、欠かせない準備の一つである。うまく出来るだろうか? という不安や弱気をかかえたままでは、成就はおぼつかない。
自分はこうするのだという気持ちの強弱が、仕事の成否を決める。幾度となく辛酸をなめても、本人にやるのだという気力がある限り、いつかは必ず成功する。当の本人があやふな考えで、誰がついてくるだろうか。
失敗するのは、始める前にすでにやめてしまっているか、一、二度の失敗であきらめてしまうからである。
こうした心の準備が整ってこそ、物質面の準備にも初めて命が宿り、生きてくる。新たな物事を始めるにあたり、物質面の大切さを言う人は多い。しかし一番大切なことは、「心の準備」であり、夫婦の心の一致と家族の協力、また大きな希望を燃やすことなのである。