丸山敏雄ウェブー倫理運動の創始者 その生涯と業績

倫理の道標

丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則

21. 事が済んだ後の心得

心配するな、何とかなる。

嵐の中でも時は経つもの。

人事を尽くしたら騒がず天命を持つ心の余裕が必要だ。

「しまった、まずい結果になった。取り返しはつかない。何とかならないか・・・・・・。事がうまく運ばなかった時、後悔の念が胸を襲う。悔しい思い、情けない気持ちが込み上げてきて、果ては食欲も落ち、寝付きも悪くなってしまう。
そんな時、どうしたらいいのか。あまりクヨクヨしすぎたり、落胆し悲観するばかりでは天も救いようがない。失敗だったとしても、まずは深呼吸でもして心を落ち着かせたい。そして、早く態勢を立て直し、淡々となすべきをなせばよい。すると、事態は、それ以上は落ち込まず、必ず好転する。
中国の『菜根譚さいこんたん』という本に、こんな言葉がある。

風来疎竹、風過而竹不留声。
雁度寒潭、雁去而潭不留影。
風、疎竹そちくに来る。風過ぎて竹に声を留めず。
雁、寒潭をわたる。雁去りてふちに影を留めず。

風來竹風過(而)竹不留聲

直筆「風來竹風過(而)竹不留聲」

まばらな竹林に、一陣の風が吹きつけて、竹はざわざわと騒ぎ立つ。しかし、風がやめば、再び静まりかえって何の物音も発しない。雁の群が飛んで来ると、澄んだ池の水は、その影を映し出すが、雁が去ってしまうと元の静けさに戻り、何の影も残さない。
当たり前の情景だが、その奥には深い意味が宿されている。善きにつけ悪しきにつけ、過ぎ去ったことにいつまでも心を煩わせるな、ということである。
丸山敏雄は、この一節にことのほか親しみ、座右の銘とした。著作にもしばしば引用し、揮毫きごうも残している。受験生のための「受験の心得」には、『菜根譚』に通じる知恵が満ちている。

試験が終わると、できたぞと思うといい気になって、まだ発表もないのに有頂天になり、失敗したと思うとふさいだりヤケクソになったりしますが、実は終わった後の心がけが大切なのです。(中略)発表があるまでは、試験前と同じに心を引きしめて、むちゃな遊びをしたり心をゆるめてズボラをしたりせず、落ちついて朗らかに時を待つのであります。(『学童愛育の書』より)

受験そのものは終わったとしても、試験は水面下ではまだ終わってはいない。答案の採点が行なわれ、総合判定を経て、最終的に合否が決定される。結果を勝手に憶測して心を乱すことがあってはならない。成就を祈りつつ、心を平静に保ち、じっと時を待つ。
これが、「事後の心得」の鉄則である。そうした気持ちで過ごすと、力に応じ誠意に応えて、必ずよい結果を招く。「人事を尽くして天命を待つ」という。「人事」は人のする仕事。「天命」は天の命令であり、運である。人間としてなすべきことに最善を尽くして努力し、あとは天に任せてじたばたしない。結果は天の領分であって、成功・失敗にこだわらず、人として全力を尽くせばそれでよし、と考えたい。