倫理の道標
丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則
16. 「後始末」の習慣は世界を変える
終点は次の出発点である。
後始末をしなければ、次の仕事が始められない。
迷わず、今すぐにやる習慣をつけたい。
「痛たたた・・・・・・」
出勤前の慌しい朝、本来その場所にあるはずがない物に足を引っ掛けた。<昨夜、元に戻すのを怠ったな>と、悔やんだりする。心を入れ替えてみるが、三日坊主で終わることも多い。必要なことはわかっているし、「やらねばならない」と思いつつも継続しにくいのが、後始末である。
「立つ鳥跡を濁さず」と言われる。日本人の徳目として教えられて来た後始末に、敏雄は、生涯を通して取り組んできた。一日の後始末、締めくくりとして、亡くなる日の朝まで日記を書き続けた。視察や旅行を終えた時には、必ず記録を書き残している。
武蔵境の敏雄の自宅の六畳間には、2メートル四方の机が鎮座していた。月刊誌の編集や発送、経理などの執務に不可欠な机だった。
パソコンが普及した現代とは違って、当時は万年筆にインクを付けて執筆にあたっていた。机の上には数多くの原稿用紙や書類が広げられている。万年筆を使い終えた時は当然のことながら、用事で席を立つ時にも、インクの蓋を必ず閉めた。
使った傘は、しずくをすっかり落としてから、所定の場所へしまう。手ぬぐいやタオルを使った後は、端をピンと引っ張って整える。書道の後は、筆は必ず洗い、一礼してからしまう。会議室や浴室、起床後の寝具などは、使う前よりも美しく整えた。
後始末とは物事の終点であると同時に、出発点でもある。けじめをつけるために、速やかに行なうのが望ましい。後始末を習慣化すると、さまざまなことがわかってくる。「小さいしめくくりを怠ると、大きな失敗につながる」ことにも気がつくようになる。
たとえば、店で所望した商品がサッと出されると、好印象を持つ。窓ガラスがよく磨かれ、塵一つ落ちていなければ、顧客も自ずと集まってくる。会社員の場合なら、出張の事後報告を速やかに行なうことで、上司や同僚の信頼が高まる。必要な書類をサッと取り出すこともできる。
最初は意識しなければできないかもしれない。しかし、「やろう」と決意して心がける。やり始めれば簡単である。公私を問わず、事の大小にかかわらず、身についてゆくことに気づくだろう。
「ことが終わったとき、すぐやることです。それを逃すと、おっくうになり次第にやりにくくなります」
敏雄の語る「この機を逃さず」という前向きな姿勢が、呼び水となってどんどん小さな成功につながっていく。そうなればしめたもの、楽しくて仕方がない。「後で」と躊躇せずに「今すぐ」を心がけることが第一歩である。