倫理の道標
丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則
8. 喜んで支払えば、お金は入ってくる
クヨクヨ、グズグズ、イヤイヤ支払う。
出し惜しみして、渋面つくって支払われたら、
相手も買われた品物も面白くない。
ケチな人間には、ケチなようにしか周りは動いてくれない。
「お忘れかと存じまして、ご連絡を差し上げました」
口調は丁寧だが、言い訳は許さない。そんな気配を感じる督促の電話。クレジットカードの引き落としをはじめ、各種の公共料金など、うっかり滞納すると、たちまち連絡が来る。
収入は嬉しいが、支払いはしぶしぶというのが、ごく一般的な気持ちである。
しかし、その発想を逆転させる時、思わぬ世界が眼前に広がる。敏雄は、いつでも支払いに厳格だった。アイロンをかけ、きちんと整えてから財布に入れた札を、躊躇なく、喜んでサッと支払った。
昭和25年、敏雄は、大西貞子の夫の店に、ワイシャツの仕立を依頼した。数日後に品物が出来上がり、貞子は東京武蔵境の丸山宅に届けた。「支払いはおついでの時で結構ですから」と伝えた。だが、夫人のキクはその場で即座に仕立代金を払った。
敏雄のもとには、金銭についての相談を持ちかける人が多かった。
尾田久太郎は、上野で水道工事業を営んでいた。彼は、毎月の仕入先への支払いに苦慮していた。工事を受注しても、売上げが入ってくるのは、しばらく先のこと。手元に現金が足りないため、多くの仕入先に、全額を払うことができなかった。しかし、何とかしたいという気持ちは強く、すべての相手先に少しずつ分割払いをしていた。
「尾田さん、支払いというのは仕入先の相手に全額支払うものですよ」
敏雄はきっぱりと言い切った。尾田は驚いた。
<全額を払ったら、各社へ支払う前にお金が尽きてしまうぞ>
だが、これまでのやり方は、決して感謝されていなかった。累積した未払い金と共に、常に不足不満が溜まっていたのである。
<今のままでは何も変わらない。言われたように思い切ってやってみよう>
尾田は、各仕入先に、先着順に全額を払うことにしたのである。当然、すぐに現金は足りなくなる。後になった仕入先は、まったく支払われないことになる。
月末の支払日には、先を競って集金に来るようになる。支払いをできない人には、丁重にお詫びした。2、3ヵ月が過ぎる頃、不思議な変化が起こった。
「こんにちは、尾田さん。あんたのお店の前を通ったら今までの分を払っていかなくてはと思って寄ったんだよ」
これまで焦げ付いていたお金が、次々と入金されるようになった。半年も経つ頃には、仕入先すべてに、全額を支払っても余剰金が出るようになった。
尾田は、嬉々として敏雄に報告に行った。敏雄はおもむろに座布団から下りて、深々と頭を下げた。
「尾田さん、有り難う。あなたの実践のお陰で、また一つ新しい生活法則が証明されました」
敏雄は、「支払いは早く」「支払いは喜んで」という信念を、ますます深めた。
支払う時に、いやな顔をすれば、支払いを受ける側は不愉快になる。相手が面白くないだけではない。買われた商品も不愉快になる。その気持ちは、次第に周りのすべてに影響していく。
クレジットカードの浸透によって、欲しいものを手軽に購入できる時代になったが、支払わねばならない金銭を支払いの期日に喜んで払う時、胃に滞っていたものが全部消化されたかのように清々しくなる。金銭を受け取る側との信頼関係も深くなっていく。
「支払い振りが見事だ」という評判によって事業が飛躍的に伸びた体験例は、数知れない。