倫理の道標
丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則
10. 物の見方を変えるユーモア
押してダメなら引いてみる。正面がダメなら裏へ行く。
当たり前に思えることでも、ちょっと見方を変えるとよい。
実に新鮮に見え、面白くなってくる。
固い頭では、新しい発想は浮ばない。
大雪の降った朝、気をつけて歩こうとすればするほど、革靴はすべり、したたかに腰を打つはめになる。困難は、避けようとすればするほどついて回るもの。
そんな時、くさりきった気持ちになれば、神経はますます過敏になり、気持ちは暗くなる。災難はますます増えてくる。
大阪弁には、「泣いている暇があったら、笑ろてこまして生きようやないか」という言葉がある。しんどい時こそ、尻についた雪を払い、何事もなかったかのように、笑って出勤しよう。
にっちもさっちもいかない時には、その場面から一歩離れて、自分を見つめ直してみると、<何でこんな事に、いつまでもクヨクヨしていたんだ>と笑ってしまう。ふっと、解放されたような気持ちになる。
敏雄は、講演では、難解なテーマの時も、たびたび聴衆を笑わせて、話を進めていた。宴会などで乞われれば、喜んで芸を披露した。昭和25年5月5日の誕生日には、苦手な剣舞を舞って、集まった人びとを楽しませた。和やかな家庭をつくるためにも、笑いやユーモアを生活に取り入れるように勧めた。
ある日、愛弟子の一人が彼の自宅を訪れた。寡黙で有名な人物であった。敏雄は共に食事をしながら、こう言った。
「ユーモアの一つぐらい言って、食べるのが良いですよ。黙ってニラメッコばかりしているようでは、いけません。せめて食事の時ぐらいは、夫婦・親子が談笑しながら過ごすようにね」
家庭や職場にも、誰かの笑い声が聞こえたりするとホッとさせられる。自分も相手も緊張感がほぐれ、雰囲気が和んでくる。
そんな時、会話がはずみ、うまい具合に良いアイデアがパッと閃く。「緩急自在」の「緩」をつくる、それがユーモアだ。「急」ばかりでは肩に力が入って、かえって失敗する。
大きな仕事を成し遂げようとする時、情熱を燃やすことは大切だ。しかし、夜も眠れないほどに激憤していては、体もまいってしまう。適度なリラックスが、ぜひとも必要である。
ウイットに富んだユーモアを心がけると、頭の回転も速くなり、心身がリフレッシュされる。
笑いとは、「安心」である。笑いには、心にとっての毒、つまり心配、不安、怒りなどを浄化する作用がある。
良いユーモアとは、懐の深い、安心を与えるひと言である。個々人の持っている不安や強迫を一つ一つ取り除く優しさの贈り物だ。
がん患者に、落語を聴いてもらうと、治療効果が上がるという。落語を習う医師も実際にいる。
笑いは、精神のバランスを取り戻す妙薬である。やがて本来の「明朗」を取り戻せば、病気も災難も根こそぎ吹き飛ばしてしまえる。1日1回はジョークを放ち、笑顔の種をまこう。