丸山敏雄ウェブー倫理運動の創始者 その生涯と業績

倫理の道標

丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則

32. 感謝の心なくして健康はない

食べ物の好き嫌いは、「わがまま」に基づく。

「わがまま」は人にも仕事にも及ぶ。

人を困らせるだけではなく、自分の健康も損ねる。

出された食事も、与えられた仕事も喜ばなければバチが当たる。

世をあげての健康ブーム。雑誌、テレビには健康によいというさまざまな食品が紹介される。ポリフェノールがよい、アガリスク茸がよい、ココアがよい等々、枚挙にいとまがない。
では、健康を気にして、よいと言われるものだけを食べ続けたら、果たしてそれで健康になれるのか――。決してそんなことはない。
逆に医学的に、摂ってはいけないとされるものもある。そういうものは食べてはいけないのか。確かに、それだけを毎日毎日、大量に摂り続ければ、問題かもしれない。しかし、そういう極端なことをしない限り、健康にはまったく害はない。
好き嫌いせずに、何でもよく食べるのが、一番よいのだ。

敏雄は、田舎の農家に生まれ、一粒の米も粗末にしないように教育された。身体は丈夫だった。ところが学校の教師になり、衛生に関するいろいろな知識を得るようになってからは、かえって健康を害するようになってしまった。
たとえば、生ものはいっさい食べない。水も沸かしてから飲み、好物だった豆腐でさえ、冷奴では口にしないという具合に。当時の健康観は、今とは多少違った。現代では、伝染病はまず一部の例外を除いて、それほど深刻ではなくなった。だが、昔は、さまざまな感染性の病気が猛威をふるった。かかったら最後、命を失うことが多かった。医学が未発達で、治療ができないから、かからないように予防するしかなかった。
いわゆる「衛生家」になってしまった彼は、自分の子供にもやかましくしつけたため、痩せぎすの、ひ弱で病弱な子供に育ってしまった。健康のためにしたことなのに、かえって健康を害してしまった。
こうした生活が一変したのは、恩師からのひと言がきっかけとなった。「食物の好き嫌いをせず、食べ過ぎず、出されたものは何でも感謝して喜んで食べよ」と諭された敏雄は、その通りに実践した。
するとどうだろう、みるみる太りだし、胃腸が丈夫になったではないか。もとの健康体に戻ったばかりか、気持ちを変えると体も変わってくることを教えられた。とくに「喜んで感謝して食べる」ことが健康の第一条件であると、身をもって知った。
敏雄は、幕末の勤皇の志士・佐久良東雄の歌を好んだ。

飯食止箸乎取二毛吾王之大御恵止泪四流留

直筆「飯食ふと」扁額87×166cm

飯食止箸乎取二毛吾王之大御恵止泪四流留

「ご飯を食べようと箸を取るにつけて、わが天皇から頂戴した大きな恵みであることに感激のあまり涙がこぼれる」という意味である。
現代と当時とでは、健康の持つ意味が若干は違うものの、やはり好き嫌いなく、食べ物に感謝して何でも食べなければ健康になれないという点では変わらない。
天の恵み、そして多くの人たちの手を経た賜物である。その当たり前の事実に気づけば、自ずから感謝の気持ちが湧いてくる。「いただきます」の言葉に心がこもる。