丸山敏雄ウェブー倫理運動の創始者 その生涯と業績

倫理の道標

丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則

29. どんなことでも命がけでやれ

のらりくらりと徹底しない生き方では、何も得られない。

全身全霊を傾け、完全燃焼してこそ物事は成就する。

とことんやり抜く気概を持つことである。

司会者の紹介とともに、聴衆の拍手に迎えられ、丸山敏雄が登壇した。しかし、その表情は、渋く、険しかった。開口一番、言った。
「これから私が命がけで大切な話をしようと思って、ここへ立ったのに、今の拍手はいったい何ですか。まるで火が消えたように淋しくパラパラで、気勢のあがらぬこと甚だしい。みなさんは、本当に聴く気があるのですか? あのような拍手で、どうして勢いよく私が飛び出せましょう。大相撲の場合でも、呼び出しが悪いと、力士は熱の入った一番が取れないといいます。もっと気力のこもった拍手で呼び出していただきたい。では、拍手のやり直しっ」
その瞬間、場内から大きなどよめきとともに、万雷の拍手が鳴り響いた。昭和25年4月、上野の国立博物館講堂で、女性を対象とした講演会が開かれた時のことだった。

敏雄は何ごとも、中途半端をよしとしなかった。自らも、いかなる時、どんなことにも全力投球した。ある日の小講演会のことだった。どうしたことか、集まったのは僅か二人だった。うろたえる幹事をよそに、定刻きっかりに壇上に立った敏雄は、二人だけの聴衆を前に、朗らかに口火を切った。
「今日は、あなた方が聴いてくだされば、他に誰も来なくても結構です。いや、天地が聞いています。この柱や畳も聴いている・・・・・・」
その話ぶりは、1万人の聴衆を相手にしているかのように、烈々たる気迫に満ちていた。一語一語に、かんでふくめるような魂がこもっていた。しかも、予定どおり2時間に及ぶ熱演であった。
書道の時には、「一点一画に全精神を傾け、一字書いたら玉の汗がにじむ」くらいに書き、「一枚書いたなら、極寒の日でも全身汗ばむほどに命がけで書け」と説いている。
ある年の暮れ、訪問先で餅つき大会が行なわれた。敏雄はその時「餅つきひとつも命がけでやれ!」と、声援したという。
持てる力を出し惜しみする態度、のらりくらりと徹底しない生き方を、空気の抜けたマリ、破れた太鼓にもたとえて、厳しく退けた。
何をするにもムラの激しかったある人は、敏雄から、こう指摘された。
「やるのですか? やらないのですか? どちらかをハッキリさせて、もしやる気があるなら徹底してやってください。煮え切らないのが、あなたのいちばん悪いところだ」
以来、彼は火を吹くような実践者に生まれ変わった。
今時、「命をかける」と言えば、オーバーに聞こえるかもしれない。しかし、敏雄は、本気で、常に命をかけていた。物事に魂を込め、精根を傾けたときに得られる心の「澄み」と純度の高さ。それをこそ敏雄は、何よりも尊び、大切にしたのだった。