丸山敏雄ウェブー倫理運動の創始者 その生涯と業績

倫理の道標

丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則

37. 大自然の立場に立つ

悩みも苦しみも、自分の器が小さいから過敏に感じる。

気持ちを転換して、宇宙の視野から己を見直してみるとよい。

案外こんなちっぽけなことだったのか、と笑いたくなる。

ある秋の昼下がりのこと。敏雄は、縁側の籐椅子にゆったりと腰を沈め、杉の林にじっと見入っていた。
そこへ、弟子の青山一真が入ってきた。
「やはり秋らしく静かですね」
不用意に声をかけた。とたんに、
「しっ・・・・・・。せっかく大きな自然に向かっている時だ。黙って、一緒に向こうを見ていなさい」
と、たしなめられた。その横顔は、穏やかそのもので、悠然としたなかにも、何か一点に考えを集中して手繰たぐるような雰囲気に感じられた、と青山は当時を思い出す。
書斎から窓の外へ目を向けると、道路を隔てた向かいの敷地内に数十本の杉が群をなしていた。原稿を書く手を休め、しばしその杉の林を見上げるのが、敏雄の何よりの楽しみだった。
疲れやすく、ひどい肩こりに悩む人がいた。敏雄はこうアドバイスした。
「ものごとを重荷に受けとめないで、もっと大自然に溶け込む生活をすれば、肩の荷も下りますよ」
『言志録』という本がある。江戸末期の儒学者・佐藤一斎の随想録である。人生体験に裏打ちされた含蓄の深い内容は、広く読み告がれて、思想界に多大な影響を与えた。同書に、こんな一節がある。

太上は天を師とし、其の次は人を師とし、其の次は経を師とす

鉢植を前に微笑む夫婦

積極的に自然に親しみ、自らも植物を育てた

「最上の学び方というものは、森羅万象を先生として、天地すべてを学びとろうとする。人間や書物から学ぶことも大事であるが、大自然を直接の師として教えを乞うのが、真理を体得できる最高の学び方である」という意味合いである。敏雄も『言志録』を愛読したが、この一節を座右の戒として親しみ、そうした生き方を志した。
ある年の秋、青年を対象とした研修講座が開催された。その夜の講義で、敏雄は言った。
「君たちは、今の休憩時間をどう過ごしたか。次の講義を全身全霊で聴けるように準備を整えるためにあるのが、休憩時間です。それには、外へ出て星空を仰ぐのがよい。そして、星の運行や宇宙の呼吸と自分の呼吸とが、ともに一つの法則にのっとり、動いていることを発見することです。大きく深呼吸をして、それから講義を聴いてほしい。それくらいの心構えでないと、これからの苦難を背負って立つ青年にはなれない」
敏雄は、大自然を「真理の百科事典」として親しみ、仰ぎ、常にその頁を繰るのをこよなく楽しんだ。晩年を過ごした武蔵野市の自宅近くには、玉川上水が流れ、豊かな自然が随処に残っていた。