倫理の道標
丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則
5. 手紙はすぐに書け
思いを込めて書けば、心が通じる。
たった一枚のハガキが、人を動かす。
伝えたいことは、迷わず一筆したためて、投函しよう。
敏雄が生涯に出した手紙は膨大な数にのぼる。そのほとんどが、今も送られた人々の手元に残されている。
「先生のお手紙を拝見しますと、10年前のものでも向かいあってお話をしているように、身近に息吹を感じるのでございます」
「先生のお手紙からは声が聞こえます。お姿が見えます」
敏雄を師と慕う人たちは、手紙を通して心の絆を感じている。
手紙は一体何のために書くのか。心を文章に表し、自分の代理として用を足すのである。だから、敏雄は一通一通の手紙に心血を注いだ。
「すぐに書け。書いたらすぐポストに入れておけ。ポケットに入れるな、2日も3日も忘れるぞ。先方に着いたら額にされると思って念入りに書け」
ということを生活信条とした。
なぜ、すぐに書いたのか。
「手紙はお互いの談話ですから、気がついた時にはすぐに書き、返事は受け取った時すぐに書かなければ意味をなしません。人と対話している時、言うことはその時言わねば間に合いませんし、人に話し掛けられて3日も4日も1週間もしてから返事をしたのではね・・・・・・」
手紙を書く時、敏雄は次のような配慮をした。
わかりやすく書くこと
- 文字を読みやすく
- 簡単に
- 明確に
礼儀正しく書くこと
- 至誠を込めて
- 相手に適するように
- 昔からの形式に従う
はやく書くこと
- 文字を美しく
- 普通の崩し文字、すなわち草書を十分に知っておく
蛤をもらった礼状には、「首がきりりとうしろに廻るほど、おいしく頂戴いたしました」と、そのおいしさを表現した。
消息不明だった知人の所在がわかった時には、「子供さんも奥さんも皆無事とのこと。どんなにどんなに心配したことか。方々たずねあぐねて、やっとわかった。ああよかった」とハガキを出した。
こんな例がある。淡路島に住む人が、毎年、友人の誕生日に忘れずにハガキを出していた。友人の誕生日は、1月下旬。阪神淡路大震災が起きた平成7年。友人宅には、この年も変わらずハガキが届いた。
「お誕生日おめでとうございます。わが家はたいした被害はありませんでしたが、今、生きていて本当に良かったと思います。お元気でお過ごしください」
大災害の直後も、淡々とした心遣いを忘れない優しさ。ハガキを受け取った友人は、大いに感動した。そして、俄然世の中の役に立つことがしたくなり、ボランティア活動に打ち込むようになった。
会話の場合は、電話であろうと、直接対面であろうと、言葉としての音は消えて後に残らない。しかし、手紙の文章は「形」としていつまでも手元に残る。1通の手紙は、繰り返し読まれて時に人を励まし、力を与える。