倫理の道標
丸山敏雄の発見した幸せになる生活法則
7. 人を感動させる話し方
話術が長けているだけでは、人の心を揺さぶることはできない。
話は、人間としての深さと真実が反映するもの。
人を感動させたければ、まず自分が真心を吐露することである。
丸山敏雄の話しぶりは、聴く者の心をとらえて離さない魅力的なものがあった。
敏雄の教諭時代を知る友人は、彼の弁論をこう語る。
「いったん演壇上に立つや、まことに論旨整然、清水の泉に湧くがごとく、熱弁火を吐くがごとき雄弁の保持者でもあった」
教え子の一人は、弁論部の顧問であった敏雄から、次のように教えられた。
「まず壇上に立ったら手前のほうから目を向けて、一番後ろまで目を配れ。そして次に右まわりに全部の人の顔を一通り見まわしてから、話を始めろ。言葉も同じ調子だと聴衆も飽きるから、時には声を大きく張り上げるところがあってよいし、テーブルを叩いてもよかろう。その時その場の感じに応じてやりなさい」
彼の話がわかりやすく、しかも迫力があるのは、きめ細かな配慮とともに話す内容への烈々たる信念によるものだった。
敏雄の晩年、滋賀県大津市で催された講演会はなんと6時間に及んだ。難しい内容にもかかわらず、敏雄の話の巧みさ面白さに、聴衆は吸い込まれるように聴き入って、6時間にわたる大講演会が、緊張を少しも緩めずに終了した。
敏雄は話について、弟子たちにこう教えている。
- 具体的に話せ
- 準備をよくせよ
- 内容を十分研究しておけ
しかし、同時に「たとえ準備していっても、第一感で感じたことがあったら、それを話せ」とも教えている。まさに話は生きものである。敏雄は、青年たちに「弁論の心得」として次のように示した。
- 思うことを素直に、大胆に、明瞭に語ること。
- 人に気がねしたり、人の思惑を考えたり、その結果をくよくよ考えたりしないこと。
- 語ることは人の知識を豊富にし、意志を強固にし、感情を豊かにするものであるから、大いに語ること。
人は真心を語ることによって融和し、協同し、相敬愛するに至るものであるから己の真実を語るようにせよ。これが語るときの倫理である。
人を説得するのは、話術の力によるものでは決してない。話は下手でも、感動させられることがある。敏雄は言う。
「結局はその人の人柄に帰する。うまく話そうと欲を起すと失敗する。自分の信じていること、体験したことなど、心に響いた振動を披瀝するのであって、微塵の欲望もあってはいけない」
いかに経験を重ねて自己の中身を高めていくか。そこに魅力ある話の源泉がある。